分身ロボットカフェの挑戦 #08「前代未聞!? 心臓移植待ちの入院中に就職?」

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「分身ロボットカフェDAWN」は、様々な事情で外出困難なパイロットたちが、遠隔操作型の分身ロボット「OriHime」「Orihime-D」を操作し、自宅にいながら接客の仕事をするプロジェクト。2018年から4回の短期開催を経て、2021年6月、この「分身ロボットカフェDAWN」が、ついに”常設店”としてオープンすることになりました。この記事では、パイロットとしてカフェで働いてきたメンバーの経験を紹介します。

分身ロボットカフェ

OriHimeパイロットのエミさん

●今回お話を聞いたパイロット

「分身ロボットカフェDAWN」パイロット
 
坂本絵美(エミ)さん
拘束型心筋症という心臓の難病を治療するため、2017年以降、大阪府内の病院に入院し、心臓移植のための待機中。分身ロボットカフェのパイロットをきっかけに、現在は、NTTクラルティ株式会社に所属し、OriHime-Dを使ってNTT持株会社にて受付業務に従事している。週5日間、入院中の病院から勤務中。
 

今回お話を聞いた内容のインタビュー動画です。ぜひご覧ください。

心臓移植の待機のための長期入院。社会から隔離された暮らし。何もできない自分は、お荷物なの?

ーー今日はエミさんが入院中の病院と、画面をつないでインタビューをさせていただきます。エミさんは、ご家族と離れて単身で入院中ですよね。いつから入院をされているのですか?

エミさん(以下エミ):2017年の7月からです。わたしは大阪の病院、夫は東京の自宅で暮らすという遠距離生活も、もう3年半になりました。心臓移植の待機中なので、入院は長期になってしまいます。

ーでは、入院中に分身ロボットカフェのパイロットに応募したのですね。

エミ:はい。2019年に実施された2回目のカフェのときに応募しました。1回目の分身ロボットカフェにお客さんとして行った夫が「こんなのがあるよ!」と教えてくれたんです。

分身ロボットカフェ

ー「やってみたい!」とすぐに思われたのですか? 

エミ:それが、そうでもなくて。入院が長期に渡り、鬱々とした日々で……。募集があった時期は、同じように心臓移植の待機をしていた入院仲間が次々と天国に行った直後で、特に気持ちが落ち込んでいました。こんなときに、新しいことなんてできないよ……というのが、最初の正直な気持ちでした。

ーそれでも、応募されたのですよね。どういった部分がエミさんの背中を押したのでしょうか。

エミ:入院中は、何も変化がない毎日です。お仕事をしている人たちをみると、自分だけ時が止まっているような感じがするんですよね。自分は何にもできてないなって。それでも高額な医療費はかかっていて……。誰かの役に立つこともできず、周りの人に迷惑をかけているし、お荷物になっているんじゃないかと、世の中に対して後ろめたさを感じたりもしていました。

エミさんの命を守るためいつも体とつないでいる機械たち
エミさんの命を守るためいつも体とつないでいる機械たち

エミ:でも、分身ロボットカフェの映像をみると、様々な事情のあるパイロットのみなさんが、生き生きと働いていたんです。その様子を見て「ここには何かがあるのかも」と希望を感じました。この鬱々とした状況から少し変化するんじゃないかなというその希望が、背中を押してくれました。

ー応募は、希望のある一歩だったのですね。

エミ:はい。不思議なんですけど、エントリーをした時点でも、気持ちは晴々としていました。応募フォームに、なんで応募したのかとか、これまでの気持ちとかを書いているうちに、何年も社会に隔離されていたことによって、どんなふうに考えてどんな気持ちになってきたか……こんなに自分がいろいろなことを考えて暮らしていたってことに、そのときに気付いたんです。それだけでも十分、以前のつらかった自分からは進歩していたのですが、実際にパイロットに採用いただくこともできて、すごく嬉しかったです!

接客をするエミさんと夫さん
接客をするエミさんと夫さん

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「入院中に仕事を見つけてきた人ははじめて!」先生も看護師さんもびっくり!

ー一歩踏み出して、分身ロボットカフェで働かれてみて、いかがでしたか?

エミ:働いたのは5年ぶりで。また働けたということが、とにかく自分の中では驚きでした。「こんなに楽しめることがあるんだな!」「まだ働けるんだな!」と感じられたことが嬉しかったし、すごく楽しかったです!!

ー入院中に働けるなんて、画期的ですよね!

エミ:それは、もう、本当に、画期的です! 接客の合間に、OriHimeでおつかいにいかせてもらったことがあって、東京の町を歩いたんです。大阪の病院にいながら、懐かしい東京の地を踏んでいる! 空気を感じている!! って胸がいっぱいでした。OriHimeごしなので”空気を感じる”っておかしな表現かもですね(笑) でも本当にそう感じたんです。

ー入院中にお仕事をされることは、一般的には珍しいことなのですか?

エミ:働くって言うと、先生も看護師さんもびっくりしていました。もともとお仕事をされている方が入院中に電話やパソコンでお仕事の対応をされていることはあっても、”入院中に新たに仕事を始める人”はこの病院では初めてだとか。分身ロボットカフェの仕事の仕組みを説明するのもちょっと難しくて「え!? どういうこと…でしょうか?」って感じで。

分身ロボットカフェ

ー今ほどテレワークも盛んではなかったですし、それに「遠隔で接客」となるとますます”どういうこと!?”ってなりますよね(笑)先生方は協力してくれたのでしょうか。

エミ:「こんな社会参加の形があるんだね」「同じような状況の方にも希望を持って生きていく材料になるといいね」と、先生も、看護師さんも、応援してくださっています。他の患者さんにも「こんな事例があるよ」と紹介もしてくださってるみたいです。

ーご家族はどのようにおっしゃっていましたか?

エミ:採用されたときはすごく喜んでくれました! 働いてもらったお給料で、実家にはA5ランクのお肉をプレゼントしました。喜んでもらえると嬉しいですね。

ーエミさんの気持ちの変化が目に見えるようです。この働き方を見つけてきたパートナーさん、ナイスです!

エミ:本当に。夫は「パイロットになってから劇的に変わったね、生きることに前向きになったね」と言ってくれます。社会に対する後ろめたさみたいな気持ちを話したことはなかったけれど、以前はそういう部分も夫なりに感じていたのかもしれないです。今は、コロナの影響で面会も難しくなったこともあり、自宅用にもOriHimeをレンタルして、週末はOriHimeで自宅に帰って、庭の様子をみたり、夫と料理をしたりしています。大阪での入院生活、東京での夫との生活。一瞬で移動ができるので、二重生活を楽しんでいます。

週末はOriHimeでおでかけすることも
週末はOriHimeでおでかけすることも

入院中でも、”金曜日の仕事終わり”が楽しみ

―エミさんは、分身ロボットで働いた後、NTTの持株会社でOriHimeを使って受付のお仕事をされているのですよね、これはどういう経緯だったのですか?

エミ:NTTの方がお客様として分身ロボットカフェにお見えになったとき、接客をさせていただきました。その後、オリィ研究所経由で、「働いてみないか?」と声をかけてもらったんです。

ースカウトだったんですね!

エミ:そんな感じなのかな……? そんなことはまったく想定していなかったので、驚きましたけど、声をかけていただけてすごく嬉しかったです!

ーどんなお仕事をされているのですか?

エミ:NTTの本社で、OriHime-Dでお客様をお迎えして、会議室にご案内をする仕事をしています。お客様はみなさん驚いてくれます。「えーこれ、ライブでつながってるの?」とか、「大阪にいるんですか!?」とか。「素晴らしいテクノロジーの使い方だね」と言って感動してもらえたりもして、やりがいがあります!

OriHime-Dで受付のお仕事中
OriHime-Dで受付のお仕事中

ー毎日働かれてるんですか?

エミ:月曜日から金曜日の1日4時間です。

ー平日は毎日! 働き者ですね!!

エミ:だから、金曜日がすごい嬉しいんですよ! わくわくしちゃって! この「金曜日が嬉しいって」感覚が、わたしにとってはすごく嬉しくて。こんな気持ち5年ぶりですから。看護師さんにそんなことを言ったら、笑ってました。

ーそれは、働いているから感じられる充実感なんですね。

エミ:6年ぶりに、手帳も買ったんですよ。打ち合わせなどの予定がどんどん入ってくるようになったので。”手帳に書くほど用事がある”って、すごいです。病院の先生にも、「手帳買ったんです!」って報告しちゃいました(笑)

6年ぶりに買った手帳には分身ロボットカフェのステッカーを貼っている
6年ぶりに買った手帳には分身ロボットカフェのステッカーを貼っている

ーエミさんにとって「分身ロボットカフェ」はどんな場所ですか?

エミ:うーん……。やっぱり「自分を変えてくれた場所」ですかね。前向きに、再び生きようと、力をくれた場所。

OriHime-Dで接客をするエミさんと、開発者の吉藤

ー変えてくれた力の源は何だったのでしょうか。

エミ:一緒に働くパイロットさんの影響が大きいです。以前は、このチューブをつけたまま人前に顔を出すことにも抵抗がありました。取材なんて、前ならきっと、とてもじゃないですって言ったと思います(笑)OriHimeで働けたのも、自分の顔が見えなかったからです。でも、パイロットさんたちは積極的に発信されている方も多くて。”みんなもやってるんだからわたしもできる!”と思ううちに、すごく変わったと思います。

パイロットの仲間たちと
パイロットの仲間たちと

ー分身ロボットカフェの発する前向きなパワーは、パイロットさんのチャレンジによって生まれているのですね。

エミ:はい。一度足を運んでいただくと、きっとOriHimeと過ごす楽しさが感じられると思います。遠隔でコミュニケーションをできるテクノロジーとしてはビデオ通話などもありますけど、記念撮影とかはあまりしないと思うんです。OriHimeだと、一緒に写真を撮るんですよね。OriHime-Dと同じポーズをみんなでしたりして。お客様との一体感がある気がします。

ーその一体感、実際に体験してみたいです!

エミ:ぜひ、一度来てみてください!

「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の常設実験店については公式サイトをご覧ください。
https://dawn2021.orylab.com/

エミさんのTwitterアカウントはこちら↓

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(取材/文 いずみの編集室)