分身ロボットカフェの挑戦#02「距離も障害。海外で暮らしながら、日本で役割を見つける」

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「分身ロボットカフェDAWN」は、様々な事情で外出困難なパイロットたちが、遠隔操作型の分身ロボット「OriHime」「Orihime-D」を操作し、自宅にいながら接客の仕事をするプロジェクト。2018年から4回の短期開催を経て、2021年6月、この「分身ロボットカフェDAWN」が、ついに”常設店”としてオープンすることになりました。この記事では、パイロットとしてカフェで働いてきたメンバーの経験を紹介します。

●今回お話を聞いたパイロット

「分身ロボットカフェDAWN」パイロット
マクドナルド万里伊(マリー)さん

オーストラリア在住。オーストラリア人の夫との結婚を期に移住して21年目。育児に専念する日々を送ってきたが、3人の子どもが成長していくにつれて、自身も社会にもっと関わっていきたいと思うようになり、海外から「分身ロボットカフェ」にパイロットとして参加した。
 

今回お話を聞いた内容のインタビュー動画です。ぜひご覧ください。

体に障害はなくとも、「距離」という障害に阻まれて

ーオーストラリアから東京の「分身ロボットカフェ」で働かれたマリーさんですが、どのようなきっかけでカフェと出会ったのですか?

マリーさん(以下マリー):当時、私は専業主婦で、子育てをメインにしていました。自然と子どもたちの教育関係以外とは繋がりも少なくなっていっていて……。子どもたちの手が離れてきたこともあり、少しずつ社会に参加したいという気持ちが出てきて「これからどうやって社会とつながりながら生きていこうか」と考えていました。

そんなとき、テレビでオリィさんとOriHimeの特集を見て、思わずメールをしたんです。それがきっかけで「分身ロボットカフェ」のことも知り、わたしにもできるかも! と思って応募しました。

分身ロボットカフェの様子

ー海外で暮らしながら、日本で働くことに興味を持ったのはなぜでしょうか? 

マリー:実は、移住して10年以上、ずっとホームシックでした。自分で選んでオーストラリアに来たのだし、大好きな夫と結婚したはずなのに、不足感が消えなかったのは、母国への帰属意識が強かったからだったのかもしれません。この気持ちのまま生きていくのは嫌だなと思っていました。

ー「分身ロボットカフェ」では、からだに障害がある方が働いているのかと思っていましたが、マリーさんにとっては「距離」が障害だったのですね。  

マリー:はい。海外在住と言うとかっこいいね、楽しそうだね、と言われることも多いんですよね。ですが、どんなに長く住んでも、文化や言葉の違いという壁が立ちはだかっている中で生活しています。

オーストラリアでのマリーさんの様子。いちばん左がマリーさん。

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OriHimeは、ずっと私が欲しかった「どこでもドア」だった

ーOriHimeを使って、日本で働いてみていかがでしたか?

マリー:日本で暮らしている両親に、私がOriHimeで働いている「分身ロボットカフェ」に来てもらいました。二人ともすごくびっくりしていて。「ロボットで動いているはずなのに、マリーに見えてきた」って言うんですよ。母は大感動していました!

ーテレビ電話も簡単にできる時代とはいえ、それとは違う感動があるのですね。

マリー:両親とはほぼ毎日、通話したりもしていたのですが、やっぱりOriHimeとは違いました。OriHimeとして私がそこにいて、私の声でしゃべり、手を動かし、接客をしているということで、存在としてしっかりあったんだと思います。

マリーさんの接客の様子。海外のお客様の接客を英語でされることもあるそう。

ー距離という障害を乗り越えたということですね!

マリー:いつも日本に帰りたいと思っていた頃、子どもによく「大きくなったら、どこでもドアを作ってくれない?」なんて言っていたんです。このOriHimeは、ある意味、私が望んでいた「どこでもドア」のような存在でした。気持ちだけ乗り移って、どこにでもいける。母もそう感じていましたし、私自身も「東京にいるんだな」と感じられました。

マリーさんが暮らすオーストラリアの大自然

「分身」を使うことで、より、自分らしく、勇気を出して踏み出せる気がする

ー「分身ロボットカフェ」は、マリーさんにとって、どのような場所でしたか?

マリー:すごく新鮮でした。このカフェを通じて出会った人は、私がお母さんであることは知らないわけで、子どもがいてもいなくても関係ないというところがとにかく新鮮で。最近は”マリー”なんて呼ばれたこともないので、それも嬉しかったです。

ー「同じカフェで働く仲間」という関係が心地良かったのですね。

マリー:そうです。ここでは、親であるとか、病気があるとか、そういうこと、一切関係ないじゃないですか。OriHimeを通してだと、自分の思ったことを素直にストレートに言える気がします。

ーなるほど…! OriHimeだとストレートになれる!

マリー:私は、移住した当初は、英語ができないことをできるだけ隠そうとしていました。学生時代は、容姿を気にして、人になんて思われるのか、つい気にしてしまうこともあったんです。でもオーストラリアの文化に触れるうちに、そういう「相手にどう思われるか」みたいな気遣いって不要なんだなと思うようになりました。どんな自分であれ、自分は自分。


OriHimeは、自分の容姿も環境も気にせず、自分の言いたいことを少しずつ言えるとか、「うーん」と思うことがあったら手を上げてリアクションできるとか、ちょっとずつ社会に歩み寄っていける部分があると感じました。

ーOriHimeは「自分の分身」だからこその効果なんですかね。

マリー:そうかもしれません。OriHimeだと、外に出にくくても、勇気を出す手助けをしてくれる気がします。

ー最後に、これから「分身ロボットカフェ」で挑戦してみたいことを教えてください。

マリー:パイロットの仲間は、本当にエネルギッシュで、いろいろな事情を抱えながら、それでもなお、だれかの役に立とうとしています。体調が悪いときも、交代しながら助け合って目的に向かう様子は、英語風にいうと「Beautiful!」と感じ、感激したんです。

これから常設店になると、OriHimeで働く人も増えていくと思います。そうなったときに、私は、パイロットたちを支えるお手伝いもできたらいいのかなと考えています! 「お母さん」的な目線かもしれませんが、パイロットの彼ら彼女らがずっと活躍できるようにしたいですね。

ーマリーさん、ありがとうございました! 今後の「分身ロボットカフェ」でのご活躍がとても楽しみです!

「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の常設実験店については公式サイトをご覧ください。
https://dawn2021.orylab.com/

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(取材/文 いずみの編集室)