分身ロボットカフェの挑戦 #06「出勤できないことは、就職できないほどの”障害”でしょうか」

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「分身ロボットカフェDAWN」は、様々な事情で外出困難なパイロットたちが、遠隔操作型の分身ロボット「OriHime」「Orihime-D」を操作し、自宅にいながら接客の仕事をするプロジェクト。2018年から4回の短期開催を経て、2021年6月、この「分身ロボットカフェDAWN」が、ついに”常設店”としてオープンすることになりました。この記事では、パイロットとしてカフェで働いてきたメンバーの経験を紹介します。

分身ロボットカフェの様子
OriHimeパイロットふみさん

●今回お話を聞いたパイロット

「分身ロボットカフェDAWN」パイロット
 中村文美
ふみ)さん
脊髄性筋委縮症(SMA)という病気のため、歩くことができず、車椅子生活。大学院で情報数理の分野を専攻。統計物理学やプログラミングなどを学ぶ。分身ロボットカフェのパイロットを経て就職活動をし、3社からの内定を得る。2021年4月から学んできた知識を活かして、完全在宅勤務で就職予定。
 

今回お話を聞いた内容のインタビュー動画です。ぜひご覧ください。

”いちばん自分にできないことだと思っていたんです”

ーふみさんは今年(2021年3月現在)大学院を卒業されるのですよね。在学中「オリィ研究所」にはインターンとして関わっていたと聞きました。

ふみさん(以下ふみ):はい、最初はインターンとして応募しました! 大学でプログラミングの勉強をしていたので何かできることがあるかもと、オリィ研究所のホームページからメールをしました。すぐにパイロットになったのでインターンとしての活動はあまりなかったのですが、とにかく何かしたくて、思いの丈を送ったんです。

ーなぜインターンをやりたいと思ったのですか? 

ふみ:オリィさんのつくっている「OriHime」が、まさにわたしの”欲しかったもの”だったからです。大学で理系の分野をいろいろと勉強してきましたが、こんなふうにテクノロジーをいかしていけるのか! とその理念にとても共感しました。

OriHime
OriHime

ー”欲しかったもの”とは具体的にどんなものでしょう?  

ふみ:わたしは脊髄性筋委縮症(SMA)という病気で歩くことができません。電動車椅子に乗って大学に行くことはできるのですが、外に行きたい気持ちはあれど、やっぱり体調が悪い時にはベッドに寝てたいなって思うこともあります。”体は横にしておきながら、自分の気持ちだけ遊びに行けたらどんなにいいだろう”と思うことが、何度もありました。OriHimeは、その希望をかなえてくれる”欲しかったもの”でした。

研究の発表に出かけることも
研究の発表に出かけることも

ーOriHimeを使えば、外出するだけでなく、家にいながら働くこともできますしね! 「分身ロボットカフェ」で働いてみて、いかがでしたか?

ふみ:”接客業”というのが、まったく想定していなかったことで……。勉強してきたことを活かしてパソコンを使ったお仕事をしたいなとは考えていましたが、”接客”なんて、車椅子の自分にはいちばんできない仕事だと思っていたので、それが実現して、夢のようでした! 大学生だと、おしゃれなカフェでバイトをするようなイメージもあるじゃないですか。大学の友達も飲食店でアルバイトをする人もたくさんいたので、みんながやっていることを同じようにできた! というのが、すごく嬉しかったです。

第2回分身ロボットカフェで接客をするふみさん
第2回分身ロボットカフェで接客をするふみさん

ーアルバイトは初めてだったのですか?

ふみ:大学内のティーチングアシスタントやリサーチアシスタントなどはやったことがありました。でも、学外に出て、お店や塾とかそういったアルバイトはやったことがなかったので、社会の中で働く経験としては初めてでした。

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ハンディキャップや障害はマイナスにしかならないと、心のどこかで思っていたけれど……

ー寝たきりでも働けるというコンセプトの「分身ロボットカフェ」の試みは、世界初ですよね。実際に働く中で、何か発見はありましたか?

ふみ:オリィさんの知名度によるものはもちろんあるのですけど、毎日満席になるくらい大盛況だったことは驚きでした。カフェで店員さんに飲み物や食べ物を運んでもらうって、ある意味当たり前のことですよね。それをロボットを使って、わたしたちのように寝たきりだったり車椅子だったりする人が接客をするというのがこのカフェの特徴で、そこに対して、あんなにたくさんの方が来てくださるとは……という感じです。

過去の分身ロボットカフェの様子
過去の分身ロボットカフェの様子

ーなるほど。寝たきりの人が接客するカフェに人がたくさん集まることが意外だったのはなぜでしょうか?

ふみ:それまでは、ハンディキャップや障害はどちらかというとマイナスだと思っていたし、あまりプラスにはならないと、心のどこかで感じていました。でも、カフェには、そんな私たちの話を聞きたいと来てくださる方がたくさんいて。つまりそれって、ハンディキャップは「自分たちにしかない経験」であって、プラスに変えられるものなのかもしれないと、身を以て感じました。

分身ロボットカフェで働くまやさん
分身ロボットカフェで働くまやさん

ー実際に働くことで、プラスに変えられる可能性を見つけたのですね! 

ふみ:はい! 自信にもつながりましたし、働くっていいなあって思いました。

ー”働くっていいなあ!”って素敵な発見ですね。

ふみ:お客さんと話して、ありがとうと言ってもらえたり、収入につながったりということがあると、やっぱりすごく嬉しいです。普段はどこに行っても「ありがとうございます」と言ってばかりの立場なので、逆にお礼を言われるというのは、本当に嬉しいことだったんです。大学を卒業したら就職したいとはもともと思っていたのですが、その気持ちが一段と大きくなりました!

大学学部時代の卒業式

「出社できない」わたしが、社会の一員になるために

ーカフェで働いた後、就職活動もされて、3社から内定ももらったと聞きました。おめでとうございます!どんなお仕事をされるのですか?

ふみ:3社もいただけたことはびっくりでした。仕事内容はこれから会社の方と相談をしながら決めていく予定です。ビジネスを幅広く勉強しながら、ゆくゆくはコンピュータサイエンスなど大学で学んだことにも繋げていけたらと思っています。

ー就職活動をする中で、仕事について考えていたことなどはありますか?

ふみ:どんな仕事でも世の中にあるということは、必要としている人がいるということだと思います。だから、どんなことでも自分にできることがあるなら、やらせてもらいたいと考えていました。ただ、もう少しわがままを言っていいのであれば、「できないこと」や「障害」を踏まえた上で、わたしのこれまでやってきたこと、勉強してきたことを、ちゃんとみてくれる企業様があったらいいなと思いながら、就職活動をしていました。

研究室で英語の論文を読んでいたときの写真
研究室で英語の論文を読んでいたときの写真

ーそんな会社と、出会えたのですね!

ふみ:はい! おかげさまで……。分身ロボットカフェの存在は、就職活動をする上でも助けになりました。これまで「在宅勤務は難しい」という前提だった企業も、それが可能になっている事例があれば、話を聞いてくださることもあります。OriHimeや分身ロボットカフェを通じて、「出社できなくても活躍できる」ということを発信し続けていることはすごく価値があることだと感じました。

カフェで受付をするOriHime。他企業や他店舗で受付や接客の仕事をするパイロットも増えてきた。
カフェで受付をするOriHime。他企業や他店舗で受付や接客の仕事をするパイロットも増えてきた。

ー「出社しないと働けない」「身体障害があることの制約が大きい」という前提がどんどん覆っていくといいですね! ふみさんが体現していけるような気がします。

ふみ:夢のひとつなんですけど……わたしみたいに、生まれたときから病気があったとしても、自分にできることを一生懸命やっていれば、社会に出て、一人の社会人として働いて、誰かの役に立って、生活ができるということを示したいんです。ちょっと、大袈裟でしょうか。でも、そういうことが、他の誰かの勇気になるかもしれないと思うので、これからわたしが社会に出ていくことで、実現していけたら嬉しいです。

ーふみさんが分身ロボットカフェから切り拓いていく未来が楽しみです! ありがとうございました!

「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の常設実験店については公式サイトをご覧ください。
https://dawn2021.orylab.com/

ふみさんのTwitterアカウントはこちら↓

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(取材/文 いずみの編集室)