分身ロボットカフェの挑戦 #07「”外出困難”の活動家」

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「分身ロボットカフェDAWN」は、様々な事情で外出困難なパイロットたちが、遠隔操作型の分身ロボット「OriHime」「Orihime-D」を操作し、自宅にいながら接客の仕事をするプロジェクト。2018年から4回の短期開催を経て、2021年6月、この「分身ロボットカフェDAWN」が、ついに”常設店”としてオープンすることになりました。この記事では、パイロットとしてカフェで働いてきたメンバーの経験を紹介します。

分身ロボットカフェ

●今回お話を聞いたパイロット

「分身ロボットカフェDAWN」パイロット
 
伊藤亮(りょう)さん
福岡県北九州市在住。6歳のときに、先天性ミオパチーという手足や呼吸等の筋力が弱い病気と診断される。現在は先天性ミオパチーの会を設立し当事者として新規治療法の開発支援などに取り組む。分身ロボットカフェには、パイロットとして、2019年から関わっている。
 

今回お話を聞いた内容のインタビュー動画です。ぜひご覧ください。

車椅子に乗っている僕が、カフェで働けた

ー今日は車椅子でお見えになっているりょうさん。ふだんから移動は車椅子ですか?

りょうさん(以下りょう):はい。少しなら歩くこともできるのですが、外出するときは車椅子を使っています。先天性ミオパチーという生まれつきの病気があり、呼吸をする力がすごく弱いので、頭が痛くなったり、呼吸が苦しくなったりすることが頻繁にあるので、外出先まで歩くのが難しいことが多いです。

伊藤亮さんと分身ロボットOriHime開発者の吉藤オリィ
伊藤亮さんと分身ロボットOriHime開発者の吉藤オリィ

ーOriHimeを使って「分身ロボットカフェ」で接客をしているりょうさんですが、車椅子となると、普通はカフェで接客の仕事をするのは難しいですよね。

りょう:車椅子もそうですし、それに加えて、物を持って歩くということも、僕にとっては難しいことです。カフェでのウェイターは若い時には憧れたりもありました。でも、やっぱり、どこかで無理だなという気持ちがありました。

ー分身ロボットカフェで憧れが現実になったのですね! 

りょう:そうなんです!先日も、大分で期間限定で実施していた分身ロボットカフェで店員をしました。楽しい経験をさせてもらってます。OriHimeで接客をするというのは、今までにない感覚で夢のような感じがします。

OriHime-Dを使ってカフェで働くりょうさん
OriHime-Dを使ってカフェで働くりょうさん

ー今までにない感覚というのは?

りょう:遠隔で操作しているOriHimeは、物を持って運んでいるけど、僕はぜんぜん力を使っていなくて、僕の体は北九州の自宅にありながら、大分や東京などなど県外で、飲み物や食べ物が運ぶことができて夢のようでした。生身の自分では「できない」ことが「できる」に変わったおかげで、カフェの店員ができています。

OriHimeで「瞬間移動」できる! だから活動が広がる!

ーりょうさんは、カフェでの接客以外でもOriHimeを使っていますか?

りょう:はい。僕は「先天性ミオパチーの会」という患者の会を立ち上げ、代表としても活動しています。会議や講演にお声掛けいただくこともあるのですが、体調が悪くて長時間、長距離移動できないとき、OriHimeを使って遠隔で参加したりしています。自宅で人工呼吸器を使うこともあるので、体に負担をかけずに活動できるのはありがたいことです。

先天性ミオパチーの会代表伊藤亮

ーテレビ会議等のシステムを使うのとOriHimeは違うのでしょうか?

りょう:OriHimeは「瞬間移動」という感じ。OriHimeにログインすると、ものの2〜3秒で、ワープしてその場にいる感覚です。自分で首を動かして周りを見渡したり、リアクションとったりもできて、”その場に自分がいる”と体感できることが、他にはない価値だなと思います。ビデオ会議のように必要な決まった時間だけ共有するのではなく、遊びの空間や無駄な時間を共有ができるのもOriHimeの良さだなと思っています。

OriHimeで会議に参加するりょうさん
OriHimeで会議に参加するりょうさん

ーOriHimeは活動家としてのりょうさんにとっても欠かせない相棒ですね。

りょう:今までは、その場にいかないと参加できないことや働けないこともあったと思うのですが、「その場にいないと働けない」という概念がなくなっちゃうのは大きいです。

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小さな行動が積み重なって、前に進んでいける

ー「先天性ミオパチーの会」ではどのような活動をされているのですか?

りょう:先天性ミオパチーは患者数が少なくてあまり知られていない根本的な治療法も確立されていない病気です。病気を知ってもらって理解を得たり、必要な情報を当事者に届けたり、治療に関する研究が進むように促すことはもちろんですが、それだけでなく、「患者さん達に夢と希望を届けられたらいいな」と思って活動をしています。

ー「夢と希望を届ける」! 素敵ですね。具体的にどのようなことをしているのでしょうか?

りょう:OriHimeの紹介も僕の活動のひとつです。患者さんは外に出かけづらい方も多く、孤独を感じやすい現状もあります。OriHimeを使えば外に出ていくことができるので、患者さんの助けになると思います。そういった、生活を助けるツールを発信していくことで、希望につながっていくのではと考え、発信活動も力を入れています。

ーそんな積極的に活動をされるりょうさんの、活動の源が知りたいです。

りょう:僕はけっこう会いたいなと思う人には自分から連絡をとって会いに行ったり、行動することが多いです。自然にやっていることもありますが、意識している部分もあります。OriHimeとの出会いも、僕がオリィさんに興味を持って連絡をして、会う機会をいただけたことがきっかけです。その後オリィさんを北九州にお呼びして、講演会の主催もしました。行動って、新しいつながりを生んだり、次の活動への布石になったりもして、最初の1歩は小さくても自分で切り開くことを大切にしています。活動の源の一つに好奇心があります。

北九州市で開催した吉藤オリィ講演会
地元北九州で、吉藤の講演会を主催した

ーなるほど、行動すれば次につながるのですね。

りょう:辛かったり悔しかったりすることもありますが、出会いや出来事のちょっとちょっとのきっかけを積み重ねて成長できているように感じます。

分身ロボットカフェでの様子

ー今後も分身ロボットカフェの接客も続けられるのですよね!

りょう:はい! 分身ロボットカフェって普通のカフェとは少し違って、お客さんと店員さんがよくしゃべります。カフェがきっかけでその後もSNSなどで繋がるケースもパイロット仲間達でもよくあって、そういうところが面白いですよね。

ー確かに、普通のカフェで店員さんと仲良くなってその後もつながっていくってあまりないかも……。

りょう:僕も、精一杯OriHimeを使って、おもてなしをしていきたいです! ぜひ、会いにきてください!

「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の常設実験店については公式サイトをご覧ください。
https://dawn2021.orylab.com/

りょうさんのTwitterアカウントはこちら↓

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(取材/文 いずみの編集室)