分身ロボットカフェの挑戦 #01「寝たきりだけど、人生が足りない!」

分身ロボットカフェの詳細はこちら

「分身ロボットカフェDAWN」は、様々な事情で外出困難なパイロットたちが、遠隔操作型の分身ロボット「OriHime」「Orihime-D」を操作し、自宅にいながら接客の仕事をするプロジェクト。2018年から4回の短期開催を経て、2021年6月、この「分身ロボットカフェDAWN」が、ついに”常設店”としてオープンすることになりました。この記事では、パイロットとしてカフェで働いてきたメンバーの経験を紹介します。

分身ロボットカフェDAWN 常設実験店オープン!

●今回お話を聞いたパイロット

「分身ロボットカフェDAWN」パイロット
永廣 征人(マサ)さん

1歳のときに脊髄性筋萎縮症(SMA)という指定難病の診断を受け、寝たきりの生活を続けている。わずかに動く指とアゴでパソコンを操作してOriHimeを操縦し、1回目の「分身ロボットカフェ」開催時からパイロットとして参加した。常設店にも参加予定。分身ロボットカフェのキービジュアル写真(上記写真)のモデルをつとめたのも、実はマサさん。
 

今回お話を聞いた内容のインタビュー動画です。ぜひご覧ください。

SMAという難病で寝たきり。”25才、そろそろ働かないとさすがにまずいかな”。

ーマサさんは、「分身ロボットカフェDAWN」が初めてのお仕事だと聞きました。

マサさん(以下マサ):はい、そうです。カフェで働く前にも就活したことはありましたが、うまくマッチングはできなくて。当時、「自分も25歳だし、そろそろ働かないとさすがにまずいかな」と思ってはいても、かなり重度な寝たきりの体なので、そう簡単にはいかず……。やっぱり働くのは難しいのかなあと、そのときはちょっと落ち込みました。

分身ロボットカフェの様子
あごと両手指先でパソコンを使い、遠隔でOriHimeを操縦する

ーそれは、今から3年くらい前でしょうか。今よりももっと、外に出ることができない事情があると、働くことは難しい世の中だったかもしれません。

マサ:当時利用していた障害者専門就職斡旋サイトの担当者が言うには「会社に出向く働き方の方がまだまだ当たり前なので、在宅ワークの仕事はあまりない」とのことでした。一般の求人だと、いくらかは在宅でできる仕事もあったのかもしれませんが、自分自身はアルバイトもしたことがないので自信がなくて、そこへ応募することは躊躇していた部分もありましたね。そんなときに見つけたのが「分身ロボットカフェ」の募集だったんです。

ー迷いなく応募はされたのですか?

マサ:「これはもう、やるしかねえな!」って応募しました。働けることが決まった時はすごく嬉しかったです。でも、まさか自分が接客の仕事をするなんて、夢にも思っていなかったので、正直不安も感じていました。コミュニケーションがそんなに得意な方ではないですし……。ちゃんとオーダーを取れるかとか、当日は、脂汗をだらだらかくくらい緊張しました。

OriHimeでの接客経験をきっかけに、ニートからクリエイターへ変身! 

ー不安ながらも「分身ロボットカフェ」で人生で初めての仕事、それも”接客”をしてみていかがでしたか?

マサ:カフェ自体が世界で初めての試みで全員が初対面・未経験ですし、さらにテレビの取材なんかも来ていたりで、スタッフもパイロットもてんやわんやな状態でしたけど、全てが初めての経験で、不安よりも、すごく、楽しい気持ちが上回っていました!

ーパイロット仲間やスタッフと共にやりきったのですね。

マサ:自分はこれまで家でひとりでやる作業が多かったので、だれかと一緒にひとつの目標に向かって邁進するという経験が、とても新鮮でした。休憩中に、パイロット同士でOriHimeを通じて会話をすると、意外な共通点が見つかったり、すごい経歴を持っている人がいたりして、普段出会えない人との出会いも刺激になりました。元バリスタのパイロットもいて「やべープロがいるよー!」とか突っ込みながら仲良くなっていって、体調が悪いときは助け合って、「仲間っていいなあ……」と身に染みて感じました。

分身ロボットカフェの詳細はこちら

マサさんご本人が「分身ロボットカフェ」を訪れたことも

ー「仲間」を得られたことは、マサさんにとって大きな意味があったと。

マサ:はい、仲間の存在はとても大きいです。さらに、その場での仕事だけじゃなくて、その後、カフェを通じて仲良くなったスタッフの方達に誘われてゲームを作るサークルも立ち上げました。せっかくだから自分の経験をゲームにしようということになり、カフェの仕事で自分が感じた楽しかったことや大変だったことをもとに、寝たきりの人が主人公のゲームを作りました。毎日徹夜で作業したり、一人だとモチベーションも保てないので、仲間がいたからできたことです。できあがったゲームは、実際にインターネットで販売するところまでこぎつけました。

マサさんが体験を元に制作したゲーム「ねたぼく -寝たきりな僕はアンドロイドの君と出会う-」

”人生が100年では足りない!” テクノロジーと人間の未来は明るいと、確信している。

ーカフェでの経験は、マサさんの人生にどんな影響を与えたのでしょうか。

マサ:これまで出会ってこなかった人たちとの出会いによって視野が広がりました。それにより、いろいろなことができるようになって、いろいろなことを経験させていただけたのは、すごくありがたいと思います。

開発者吉藤と一緒にイベントに参加。OriHimeで講演会に登壇することも。

ーこれから挑戦したいことは何ですか?

マサ:ロボットアームの開発をもっと極めたいし、3Dモデルもつくりたいし、カフェで働いてお金稼ぎたいし、ゲームにもはまっていてマインクラフトももっとやりたいし、あと、OriHimeで楽器を演奏してみたい。こんな体なので、体を使ってできることには憧れています。ヴァイオリンの音色が好きなんで、演奏できたらいいな。モテそうな感じもあるし(笑)。やりたいことは、この、寝たきりの体ひとつで足りないくらいいっぱいあります!

ーやりたいことがどんどんあふれてくる!

マサ:今は人生100年とか言われていますけど、「人生100年じゃ足りねえよ!」って思いながら。楽しくやってます。

ー”人生が、足りない!”ってすごい言葉だ。

マサ:以前は、就職もできないし、親もいつまで元気でいられるかわからないし、自分は将来どうなるんだろうと、漠然とした不安がありました。でもカフェと出会ったおかげで、テクノロジーの進歩を感じ、「未来は明るい」と確信しています。
ただ、テクノロジーだけよくなっても、やっぱり人がいないと、できることも限られてくると思います。カフェを通じて、「仲間」というものもたくさんできましたし、たぶんこれからもいろんな方たちとたくさん出会える。そういうことを考えると、楽しみしかないと思うようになりました。

ーマサさん、ありがとうございました!最後に、読者の方へメッセージをお願いします!

マサ:カフェをきっかけに私の人生は大きく変わり、未来に希望を持てるようになりました。たとえ寝たきりになっても仲間と働き人生を楽しめる時代が今、目の前にきています。ぜひ新しい時代の夜明け(DAWN)を体験しにお越しください。精いっぱいおもてなしさせていただきます!

「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の常設実験店については公式サイトをご覧ください。
https://dawn2021.orylab.com/

マサさんのTwitterアカウントはこちら↓

分身ロボットカフェの詳細はこちら

(取材/文 いずみの編集室)